今年もCDJ決定!

あいどうも。タナカです。

というわけで、今年もCDJ参戦が決定しました。わーい。
あとは振込み忘れないように気をつけないと。(マジで
ほんまは大阪のほうに行こうかと思ってたんですが(31日のメンバーの顔ぶれが大阪のほうが圧倒的にいい)、それはそれ、これはこれということで今年も幕張行ってきます。

メインは30日!
ELLEGARDEN
KEN YOKOYAMA
ZAZEN BOYS
東京事変
が一堂に会する!
あと
GRAPEVINE
PUFFY
電気グルーヴ
なんかも!

もう、タイムテーブル発表が怖いくらいです。
もちろん31も悪くはない。
OVERGROUND ACOUSTIC UNDERGROUND
NIRGILIS
BEAT CRUSADERS
100s
フルカワミキ
ILL
eastern youth
BACK DROP BOMB
THE BACK HORN
など、いい面子はそろってる。
でも個人的にこっちはタイムテーブルかぶってもまあいいけど。

一応3日チケとったんで今年はなんと3連戦??…イケルトイイナー
だって29日は
くるり
Salyu
が出ますから。。。見たいなー。
頼む仕事、ここに食い込むな、仕事。
その一念です。

つか、3年連続抽選販売うまく切り抜けてます。
運命は間違いなく俺にCDJを呼び寄せてくれてます。
だから、仕事も食い込むなー。頼むー!!!!!

以上!

友達。

最近、毎週のように誰かに呼び出されては会ってたりするタナカさん。

うん、人に会うのは、良いもので、まあ人にも寄るんだろうけれど、特になにがあるわけではないのだけれど、こう、ちょっとハッピーな気分になれるというか、なんというか。

まあやっぱ気心の知れた相手と時間を共有することが心の安寧に繋がってるんだろうなと、尤もらしい、月並みな結論に至るわけだけど。

…なんてわざわざここに書くのはまあ、面と向かって嬉しいとか、ありがとうとか、今更声を大にして云うのもなんだかなぁ、というか、そういうことを言う必要がないからある意味心地良いわけでもあるけれど、伝えたいところもあるんだろうなぁと思う次第で。

そんなこんなで、またCDを買ったりする日々ですが(脈絡なし)最近のタナカサン的お勧め盤はPLINGMINのコヨミポッド。
http://www.plingmin.jp

スーパーカー亡き今、日本のポストロックシーンを牽引しうる存在として、俄かに注目を集め・・・てもいないけど、好きです。つか、まだファーストアルバムも出ていないような駆け出しのバンドなんですが。その2ndEPがコヨミポッド。
ぜひ一聴あれ。

まあなんですな、たまにはブログもちゃんと(?)更新しよう大会実施中な感じで贈りましたが、何を書いていいのやら、取り留めのない感じですな。

やりたいこともいろいろあるのだけれど、うまく掴みきれないで、なんとなく掌から零れ落ちていく感じもしないでもない今日この頃です。

『ミシュレティア』 1-1 出鱈目の王国と隣の少女(3)

(承前)

 階段を上り、僕が通されたのは少女の部屋だった。それは僕にとって未知の領域のさらに奥深い場所だ。でもそこへ通される過程において不安を感じることは一切なかった。この家に来た時と同じく、少女の指示に従ってついて行くことがさも当然のように感じられた。
 彼女の部屋は女の子らしく(といっても少女趣味的なわけでもなく、また僕はそれほど多くの女の子の部屋を知っているわけではないのであくまでも僕個人の見解としてではあるが)、大小様々な小物で飾られたさっぱりした部屋だった。それは非常にバランスの取れた部屋だった。そこに存在する装飾品の数は決して多すぎず、少なすぎず、絶妙のバランスで配置されていた。それは今まで僕が見てきた中でもっともバランスの取れた部屋であるように感じられた。
実際、悪くない部屋というものは数多く存在する。自分で言うのもなんだけれど、混沌に身を委ねた時以外の僕の部屋もどちらかといえば悪くない方に分類されると思う。僕なりのこだわりを持って手を入れた部屋なのだ。しかしながらそれは今僕が目の前にした部屋の足元にも及ばないものだった。とにかく、バランスが良いのだ。
「いい部屋だ」
僕が独り言のようにそう言うと彼女は満足そうな笑みを浮かべてベッドの上に座し、僕は何か探し物でもするように部屋の中を見回した。五畳半の部屋だ。実際にはそれほど見てまわるほどのものがあるわけでもない。それでも僕は時間をかけてゆっくりと眺めた。特に何を見るわけでもなかったけれど、そうせざるを得なかった。きっとどこかにバランスを保つ元があるのだと思ったのだ。それは単純に感覚的なものではなく、形而上的な存在として確かに存在した。
 そんな僕を少女は無言で見つめた。或いは僕のことなど全く見ていなかったのかもしれない。僕は彼女の視線を全くといっていいほど感じなかった。それでも彼女の眼は確かに僕を追っていた。
 少女の部屋にはひとつの本棚があった。そこではびっしりと詰まった文庫本の背表紙が部屋の壁紙となって存在していた。割りに大きい本棚なのに無駄に存在を主張しない、自然と部屋に溶け込んだ本棚だ。一般的な高校生の読書量というものがどれだけのものかは知らないけれど、結構な分量だった。そこには恋愛小説から純文学、ノワール文学、歴史小説、ジュブナイル小説、それに古典文学と、あらゆる種類の本が分け隔てなく並べられていた。
「これ、全部読んだの?」
 少女は無言で頷く。
「読書家なんだね」
「たいしたことないわ」
 たいしたことない。或いはそうなのかもしれない。活字離れが進んでいるといわれる現代だからこそ彼女の読書量は多く感じられるものの、読書好きな人においては普通のことなのかもしれない。でもそのセレクションの広さはどうだろうか?そこにはいかなる種類の傾向も見られなかった。そこには何の表情も見て取ることができなかった。
「特に好きな作品とかある?」
「別に。どれもつまらないわ」
「つまらないのに読むの?」
「だってそれは読むために存在するものでしょ?」
 確かにその言葉自体に誤りはない。本は読むために存在する。読まれるために書かれる。でもそれだけの存在だっただろうか?僕はいくつかの本に手を掛け、軽く眼を通した。読んだことのある本もあれば初見の本もあった。僕の好きな本もあれば嫌いな本もあった。しかしながら少女にとってはどれもつまらない本だということになる。
「どれも大して変わらないのよ」と少女は言った。「もちろん全部ってわけじゃないわ。でもね、大抵のものは同じなの。男の人と女の人が出てきて寝るのよ。それだけよ」
 それだけ?
「もし私たちも物語の登場人物だったら私たちも寝るのかな?」
 僕には何が何だかわからなくなった。少女の思考に非常に混乱させられていた。僕の持っていた価値観の全てが誤ったものであったかのような気さえしてきた。僕には少女の言葉を理解できなかったけれど、なぜかそれを疑うという気持ちに一切なれなかった。それはある種の正しさを持った言葉だけが持つ真っ直ぐな響きを持っていたのだ。
「ねえ」と少女は言った。
相変わらず少女の視線は僕に向けられながらも、まるで僕を見ていないように思えた。
「煙草、吸いたいのなら構わないわよ。机の上の線香の受け皿を灰皿代わりに使うといいわ。でもその代わり煙は全部窓の外に吐いてね」
 僕には本当のところ煙草を吸いたいのかどうかよくわからなかったけれど、きっと吸いたかったのだろうと思い、促されるままに煙草を手に取った。そしていつもの儀式に取り掛かる。ライターの火は緩やかに煙草の先を熱し、焦がしていった。僕はその炎を見つめながらゆっくりと息を吸った。息を吐くと同時に火を消した。
 咥えた煙草からニコチンが吸収され、脳を満たしていく。別にニコチン中毒というほどのスモーカーでもなかったけれど、それが脳を活性化させることに違いはない。
「それ、美味しいの?」と少女は言った。
「さっきも訊いたよね」と僕は言った。
「うん」
「じゃあもう一度答える。別に美味しいというほどのものじゃないよ」
「うん」
 僕は煙草を一口、二口と吸いながら混乱した脳を解きほぐそうとした。でも考えるよりも先に言葉の方が出てきた。
「物語ってさ、書いた人の意図なんてホントの所は関係ないんだよね。もちろん書かれてる時点では大事なことなんだろうし、文学研究者にとってはそれこそが至高の価値を占めるものなんだろうけど。でもね、結局のところはそれは書かれた時点で著者の元を離れちゃうんだ。そうして読む側にまで届くんだよ」
「そうね」
「でね、君に届いたそれはただ一組の男と女が出てきて寝る、それだけの物語になっていた、そういうことなんだよね」
「一組とは限らないわ」
「そうだね。でも基本的には寝るだけ、それだけの物語として届いた」と僕は言い、また一口煙草を吸った。「もちろんそういう風に捉えられた物語にだって問題はあるんだけど、そう捉えざるを得なかったのはきっと君のほうに原因があるんじゃないかなって思うんだ。きっと君がそういう部分にばかり眼を向けてしまう何かがね。一種の偏見と取ってもいい。君が寝るっていうことにどんな考えを持とうがそれは君の自由だし、僕がとやかく言うことじゃない。でもきっと君はそれをあまりいいことだとは思ってないんだろうね。寧ろ嫌悪してる、違うかな?」
「そう、かもね」
 そう答える少女の声は小さく弱いものだった。僕は煙草から立ち昇る紫煙の中に視線を感じさせない少女の顔を思い浮かべた。
「実際それはくだらないことなのかもしれない」と僕は言った。「だいたいそれは生殖行為であり、子孫を残すための本能的な行為なわけだからね。多くの場合がその目的論からすればずれたところで行われてる。でもね、僕は思うんだけど、ものにはいろんな形があって然るべきなんじゃないかな。つまり、生殖行為としてのセックス以外だって在り得るんだ。もちろんその全てが正当化させるべきものじゃないかもしれない。でもそれはひとつの正当なコミュニケーションのひとつでもあるんだ。だから彼らは寝る。馬鹿馬鹿しいことかも知れないけれど、そのようにしてしか語れない言葉だってあるんだよ。言葉なんて不完全な伝達手段でしかないからね」
 僕はそこまで言うと煙草がもうその存在価値を失いつつあることに気がついた。最後の一口を吸い、ゆっくりとその煙を窓の外に吐き出しながら、後方から泣き声のような細く弱い声が漏れていることに気が付いた。もちろんそれは少女のもの以外に考えられなかった。他にはこの空間に誰も存在しないのだから。
「どうしたの?」
 僕はそう言いながら煙草の火をもみ消し、振り返った。
 そこには相変わらず少女がいた。すすり泣くような声はやはり少女のものだった。しかしながらそれは泣き声ではなかった。少女の右手はハーフパンツの中に消え、そして少女は小さな声を漏らしていた。僕の眼は行き場に困り、少女の周辺をさまよった。
「見ないで」と少女は言った。「話、続けて」
「うん」と僕は言ってあわてて窓の外に視線を戻した。何の話をしていたのか、なかなか思い出せなかった。「そう、つまり、寝ることだって一つの必然性を持ってるんだ。でも中にはそんな必然性すら持たない、くだらないセックスだって存在する。寧ろそういったものが今は溢れかえった世界になってるのかもしれない。だから」
「だから?」
「だから、君はそれを嫌悪するのじゃないかな」
 どこまでが僕が本当に考えた言葉なのかはわからなかったけれど、僕は自分の持てる全ての言葉を吐き出した気がした。それは少女に対して放った言葉なのかもどうかわからなかった。ただ、それ以上僕に話すことはなかったのだ。そして僕は一息ついて話し始めた時となんら変わっていない窓の外の風景を凝視した。
 暫く外を眺めていると、不意に後ろから少女に肩をたたかれた。
「ごめんなさい」と少女は言った。「またシャワー浴びなきゃいけなくなっちゃった」
 相変わらず少女は視線を感じさせない眼で僕を見ていた。
「じゃあ僕もそろそろ帰るよ」と僕は言った。
「うん。ありがとう」
 そう一言残して少女は先に部屋から出て行ってしまった。
 一人取り残された僕はもう一度外の景色を眺めた。相も変わらぬ同じ風景が僕の眼に飛び込んできた。

(続)

『ミシュレティア』 1-1 出鱈目の王国と隣の少女(2)

(承前)

 僕は庭側についた裏門を通された。広い庭だった。いつもベランダから見るよりも広く感じられる。芝は綺麗に刈られ、植木の手入れもきちんとなされていた。壁際から首だけを出していただけだったので今まで気付かなかったけれど、少女は水着姿だった。身体を包み込むその水着からすらっと伸びた肢体はまだあどけなさの残る顔立ちからは想像もつかない程に大人びたものだった。
「ここでそんな格好でずっと立ってて蚊に刺されないの?」
 それが僕の口をついた最初の言葉だった。それは或いはやりどころをなくした視線を紛らわす為の言葉だったのかもしれない。
「さあ。今のところ刺された様子はないわね。きっと私の血なんて美味しくないのよ」
「そうなの?」
「それに夏服だと何でもたいして変わらないと思うわ。どれもこれも同じくらい露出するわけだし。違う?」
「そうかもしれない」
 その通りなのだ。着ているものが水着だろうが洋服だろうが、或いはどこかの国の民族衣装だったところで露出が多ければ蚊に刺される可能性なんて大差ないのだ。くだらない質問。そんなことは考えればすぐにわかることだ。それは聴くまでもないことなのだ。でも少女は特に気にした様子もなかった。僕はほっとした。くだらない質問をする人間は時に蔑まれるような目で見られる。僕だってそう見ることがある。そうした目で見られることは実に惨めで、情けないものだ。
「ねぇ、座らない?」
「そうだね」
 少女に促されるがままに僕は縁側に腰をかけた。
「何か飲む?」
「どっちでもいいけど」
「それじゃあわからないわ。飲むの?飲まないの?」
「じゃあいただくよ」
 僕がそう答えると少女は満足げな笑みを浮かべて家の中へと入っていった。
 縁側はちょうど日陰になっていて心地が良かった。彼女もここでゆっくりしていたところに僕を見かけたのかと思って自分の家の方を見てみると、僕の家のベランダは植木に遮られて見えなかった。どうやら少女が僕を見つけたのはここからではないらしい。もう少し庭に出れば見えるのかもしれないけれど、それを確認したところで何ら得るものがあるわけでもないので僕は静かに座って少女を待つことにした。
 ふと思った。僕はここで何をしてるのだろう。何かを為さねばならないのに何を寄り道しているんだろうといった疑問を抱いたわけではない。何の予定もなければ別に何かやらなければならないこともないのだから。ただ単純に、どうしてただ偶然会っただけのご近所の、しかも名前すら知らない女子高生の家に上がっているのだろう。自分の存在がここにあることが不思議でならなかった。それは答えの出ない種類の疑問だった。とにかく僕はここにいるのだ。現前たる事実として。
 少女のことを考える。綺麗な女の子だ。もう少し年をとればもっと綺麗になるだろう。彼女はどうして僕を呼んだのだろう。偶然僕を見かけたから?ただ暇だったから?一種の近所付き合い?以前にも僕のことを見かけたことはあるのだろうか(因みに僕は彼女のことを見たことはない)?名前は?彼女の存在は僕にとって未知なるものであった。何も知らない。いや、辛うじて名字はわかる。沢木。でもそれは彼女を知る上でたいした手がかりになるものではない。結局のところ彼女は全くの他人なのだ。この場所だってそうだ。僕の家から道一つ挟んだだけの距離とはいえ、この庭も、この家も全て、僕にとっては未知の場所なのだ。外観だけならほぼ毎日、それとなくは見ている。けれどもその内部、つまり僕の今いるこの場所は完全に未知の領域・・・・・・だったのだ。つい先程まで。それが幾つかの偶然(きっと一つや二つではないだろうし、意図的に仕組まれたものではないだろう)が重なって僕はここにいるのだ。不思議なものだ。
「おまたせー」
その言葉と共に少女が戻ってくるまでには予想していた以上に時間がかかった。それもその筈だった。彼女は水着を着替えてティーシャツにハーフパンツという服装に着替えていた。髪が濡れた形跡もある。きっと軽くシャワーを浴びてきたのだろう。
「流石にお客さんが来てるのに水着は変かなーってちょっと思って。まあこれも家着だけどね。それとも水着の方が良かった?」
そう言って少女は微笑する。僕もつられて笑う。
「そうだね、水着の方がサービスされてるみたいでいいかもね」
「ま、いやらしー」
 道を隔てて話していた時とはまるで違って、テンポの早い会話だった。まるで道の分だけ会話のリズムも縮められたかのようだ。
「レモネードで問題なかった?」
「うん」
「ビールのほうが良かったかなぁ」
「あー、それも悪くないかも」
 会話のリズムの変化につられて僕の口振りもまるで仲の良い友達と話すように変化しつつあった。これが彼女が意図的に作り出した空気感によるものだとしたらそれは見事な手前だ。僕は完全に彼女のペースに乗せられているわけなのだから。
「じゃあ取ってくる」
 そう言って彼女は腰を上げようとした。
「いいよ、別に。折角持っていてくれたんだし、これ。」
そう僕は彼女を制した。
「そう?」
「そう」
「やっぱり私と同じものがいいってこと?」
「そうだね、お揃いのほうが気分がいい」
 僕らは笑う。些細なやり取りが楽しい。
 レモネードは冷やりとしていて手に納めるだけで心地がよかった。コップの淵には生のレモンが飾ってある。ささやかながらも気の利いたもてなしだ。少なくともそれは僕を感心させるには十分なもてなしだった。
 僕はレモネードに口をつけてそっと少女を眺めた。彼女も同様にしてレモネードを飲んでいた。視線はどこか遠くの方に向けられている。再び沈黙が僕らの空気に流れ込む。相変わらず心地の良い沈黙だ。僕は視線を彼女から外し、自分の居場所を再確認するかのように周囲に泳がせた。先程までと変わらぬ僕にとって未知の場所、彼女の家だ。ただ一つだけ変わっていたことは、僕をここに導いた少女の姿があること。それだけの違いにもかかわらず、一人でこの場所に残された時よりも自分がその場に適した存在のように感じられた。
 少女は何か小さな缶のようなものを足で転がしていた。直径十五センチほど、高さ五センチに満たないぐらいの白っぽい物体だ。
「ねぇ」と僕は言った。
「何?」と少女は応えた。
「ここで何してたの?」
「私?何だと思う?」
「質問に質問で返さないでほしいなぁ」
 僕はそう少女の声色を少し真似て言った。少女は笑う。
「そうね。じゃあヒントあげるから自分で考えて」
「ヒント?」
「そう、ヒント。でもほとんど答えになっちゃってると思うけどね」
「そうなの?」
「うん。だって、夏に水着ですることなんて限られてるでしょ?」
「…海水浴」
「海なんてないよ」
「知ってる。でもそれとセットですること、日焼け、でしょ」
「正解」
「日陰で、日焼け止めを塗って」
 僕がそう、少し押し殺した声で言うと、少女は下から覗き込むように僕を見た。その表情はまるで父親に叱られて許しを請うようなものだった。
「変かな?」
「わからない。大切なのは本人の気分の問題に過ぎないのかもしれないし。それに…」
 そこで僕は言葉に詰まった。少女が僕の顔を、先程とは打って変わった喜びの表情で覗き込んできた。その眼は僕が次の言葉を吐き出すことを促していた。でも僕はそれをはぐらかすように微笑んだ。
「それに?」とたまらず彼女は口に出した。
「いや、なんていうか、きっと君は日に焼けた姿よりも今のままの方が似合うんだろうなって思っただけだよ」
「そう。でもあなたがそう謂うのならきっとそうなんだろうね。なんか、そんな気がする」
「わからないけどね。でも白い肌が似合ってるよ」
「ありがと」
 そう言って彼女は立ち上がった。家の中へと数歩進み、振り返って僕に一言、短く言った。
「付いて来て」


(続)

『ミシュレティア』 1-1 出鱈目の王国と隣の少女(1)

 目が覚めると夏の日差しが止むことなく部屋に差し込んでいた。少し眠りすぎたのかもしれない。頭が痛む。
 ここしばらくあまり家から出ないで生活していたせいもあって少し生活のリズムが狂っている。目覚める時間が遅ければ眠る時間も遅い。実に出鱈目な生活だ。あまり人にも会わないからどれだけ出鱈目な一日を過ごしたところでそれを比較する対象が見当たらない。僕は独りで出鱈目な繰り返しの中で生きる出鱈目の王国の王様にでもなったような気がした。
 出鱈目の王国では出鱈目な味のコーヒーを啜ることから一日が始まるらしい。少なくとも僕がこの生活のループに身を置いてからの毎日は常にそこから始まった。給湯ポットから湯を出してインスタントコーヒーを入れて飲む。コーヒーメーカーも挽き終わったコーヒー豆も全て揃っているにも関わらず、である。きっとその方が僕に合っているのだ。
 両親が旅行に出てからのこの一週間、僕は本当に自堕落な生活を送ってしまっているようだ。

 髭を剃ろうと思い洗面台の前に立つと、そこには酷い顔をした男が映っていた。
 まるで自分じゃない。
 それは時々僕が思うことではあった。鏡に映るものは光学的な反射でしかないのだから実際にそこにあるものをありのままに映したものにすぎない。にも関わらずそれが自分でないように思えることが時折ある。
 本当のことをいうならばそれはそれほどまでに酷い顔ではなかった。血色だって悪くはないし、肌だってまだまだ若い。生活のリズムが狂っているとはいえ、栄養はちゃんと採っていたし(僕は料理は得意なのだ)、誰に会うわけでもなくとも髭だってちゃんと毎日剃っていた。僕の王国は出鱈目の世界においてはまだ駆け出しでしかないのだ。
 そこに映っていた顔の酷さは言葉では言い表せない類の酷さだった。実際世界には言葉では言い表せないものがたくさんある。だからこそ言葉は詩や文学といったいろいろな形態を持ってその表現力を伸ばそうと試みているのだ。或いは、それは言葉による世界の征服のささやかな試みなのかもしれない。
 とにかく、鏡に映った僕の顔は酷かった。何かが歪んでいた。そうとしか言えない。
 一日の初めに見た顔が酷いのは悪い兆候だ。ましてやそれが自分の顔であった日にはなおのこと。そういう日は決まって何か予定が狂う。どこかでそう規定されているのだ。・・・・・・もっとも、今の僕には予定など何もないのだけれど。
 煙草を吸うためベランダに出ると、夏の日差しが煌々と照りつけていて、僕は軽い眩暈を感じた。鏡を恐れ、日差しに怯える僕は、まるでトランシルバニアに住んでいたとされる伝説上の伯爵のようだと自分を嘲るしかなかった。さもなければただの不健康児としか言えないのだから。・・・・・・事実そうなのだけれど。煙草を一本出したまま、火をつけるでもなく風に当たっていた。熱気はかなりのものだったけれど、それほど湿度が高い様子もなく、意外に心地が良かった。
 煙草の先を軽く火で炙り、包装紙が焦げるのを確認してから煙草を咥え、火をつける。これは僕のささやかな儀式だった。煙草というのは不思議なもので、人それぞれに、数多くの儀式が存在する。新しい箱を開けたときには一本だけ逆さにしてそれは最後に吸う。取り出した煙草はトントンと叩いて葉を詰める(それで本当に詰まるかどうか事実の程は定かではない)。そういった具合に。これらはほんの些細な儀式であって、忘れたとてさほど気にも留めない程度のものではある。それでも大事にされる儀式なのだ。一種の願掛けとして。或いはこうしたものの積み重ねでこそ人生は出来上がっているのかもしれない。
 煙草を三分の二ほど吸い終わったところで一人の少女がこちらの様子を伺っていたことに気が付いた。いつからそこにいたのかはわからない。或いは僕がベランダに出たときからずっとそこにいたのかもしれない。少女は隣の家の庭(おそらく彼女の家だろう)から僕のほうをじっと眺めていた。視線が合った。
「あ、気がついた」
 道を隔てて存在するその庭で少女はそう言った。正確には明確に声が届くほどの声量で発せられた言葉ではなかったので僕の推測を含んでそう聞こえたわけではあるけれど、その推測はまず間違いないと思う。それ以外に少女の口の動きと一致する言葉は考えられなかった(もっとも読唇術が使えるわけではないので或いは違うのかもしれない)。
 僕らは暫く黙って見つめ合っていた。視界の中で動くものは特にない。まるで時間が止まったように感じられた。気が付くと煙草の火がフィルターまで達していて、正に消えようとしていた。
「それ、美味しいの?」
 少女の声が沈黙を破った。今度ははっきりと聞こえる声だった。
「いや、別に美味しいというほどの物ではないけど」
「ふーん」
 僕は少女から目を離して煙草を灰皿代わりに使っていた缶の中に捨てた。目を戻すと一寸も違わぬ立ち姿のまま少女は僕を見つめていた。きっと僕が煙草を缶に捨てる間も全く動かなかったのだろう。
「何をしてるの?」と僕は訊いた。
「私?見てのままよ。あなたのことを見てるの」
「どうして?」
「さあ、わからない。でもきっと他に何もすることがないのでしょうね」
 きっと。まるで他人事だ。
「楽しい?」
「どうかな、それもわからない。でも退屈じゃないわ」
 退屈じゃない。確かにそうかも知れない。僕もよく暇つぶしに喫茶店の窓際の席に座って街を行き交う人を眺めることがある。決して楽しいことではない。けれど退屈ではない。
 またしばらく、沈黙の間が僕らの間の空気を支配した。それは決して苦痛な沈黙ではない。沈黙の間には二種類の存在があるのだと思う。一つは気まずい、例え短な時間であっても永遠であるかのように感じられてしまう間。もう一つはゆとりのように感じられる間。こちらの方はただ漠然と時が流れてしまう。同じ時間であるのにこれら二つの間における時間の流れ方はあまりにも違う。これは必ずしもどちらかの時間の方が優れた時間の流れ方だとは言い切れないものだ。例え息詰まったとしても、機能的な時間としての前者の方が有意義に時間を用いた場合だということも出来る。つまりその沈黙は機能と機能の間に生まれた隙間からもたらされたものであり、それまでの時間の流れとのギャップが産んだ気まずさであると言える場合だってあるのだ。ただ、少女が作り出している沈黙は明らかに後者の間であった。
「ねえ」と少女は言った。
「ん?」と僕は反応した。
「暇なの?」
「どうして?」
「質問してるのは私よ。質問に質問で返さないでほしいなぁ」
「そうだね」
 少女との会話のリズムは悠々としたものだった。沈黙に区切られたマクロな視点から見たそれもそうだが、一連の応答でなされる個々の会話もまたそうだった。そのリズムはどこか懐かしさを感じさせ、和やかな気持ちにさせてくれた。質問に質問で返した僕に対する抗議の声でさえ角のない柔らかなものだった。
「暇、といえば暇だね」と僕は言った。「やろうと思えばすることはあるけど、別に今する必要はないし。取り立てて予定というものはない」
「予定というものはない」
少女は僕の言葉を反復するように言う。これもまた明確に聞こえたわけではない。
「変なことを訊いてもいい?」
「何?」
「あなたって結構いろんなことを考えすぎる方じゃない?」
「どうして?」
「なんとなく」
 なんとなく。何が彼女にそう感じさせたのかはわからないけれど、とにかく彼女はそう感じたらしい。それはきっと正しい感性なのだと思う。僕は確かに物事を考えすぎる傾向にあると言えなくもない。正解。少女の問いに対する僕の出した答えはそうであった。
「どうだろうね。そうだと言えばそうだとも言えるかもしれないけど、それに対する絶対的な基準ってよくわからないし。まあ君がそう思うならそれはそれで一向に構わないけど」
 自分の出した答えとは裏腹に明確な答えは出さなかった。それは自然に口をついて出た言葉だった。
「しかも結構な理屈屋なのね」
「どうだろう」
 理屈屋。きっとそうなのだろう。
 僕のその一言を区切として、僕らはまた悠久の沈黙に入った。お互いにただ漠然と見つめ合うだけ。特別に何かを考えるわけではない。ただ漠然と。
 そうして時が流れる。
 僕らの間に流れる悠久の時を破ったのはまたしても少女の方からだった。全ての時間を支配し、管理する権限は彼女に委ねられているようだ。主導権を握っているのは彼女の方なのだ。それもそうだ。この緩やかで心地良いリズムは彼女がもたらしたものなのだから。ただ、今回は今までと少し違った。変化は言葉によってではなく、動作によってもたらされた。少女が僕に微笑みかけてきたのだ。
「どうかしたの?」と僕は訊いた。
「ううん、なんだか変なの」と少女は答えた。
「何が?」
「あなたよ」
「僕?」
「そうよ。だって、お兄さん、大学生か何かでしょ?きっと私より幾つも年上の。それが私みたいな年端も行かない女子高生にやれ考え過ぎだの理屈屋だの言われて顔色一つ変えないんだもの。私、結構人を不快にさせることを言っちゃってると思うんだけどなあ」
「不快にさせたいの?」
「そういうわけじゃないけど。私、思ったことってつい話したくなっちゃうのよね。それでよく人を不快にさせちゃうの。私の言うことって唐突でしかもグサッとくるところを突いてくるんだって」
 伝聞。またしても他人事のように自分のことを話す。或いはそれは彼女の癖なのかもしれない。
「ねえ、もし良かったらこっちに来て話さない?道を挟んでおしゃべりしてるのって変よ。お兄さん、暇なんでしょ?」
 確かにそうだ。僕は二つ返事でその言葉に従った。

(続)
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